一色進 * 夏秋文尚 *キハラ宙 |
2009年1月18日渋谷の7th Floorというライブハウス、そこに全員がいた。その日はジャック達とtricomiのライブ。ジャック達には当然ながら、オレとヒロムとナッキーがいて、tricomiのベースはしのぶちゃんがいた。そして、客席には祥子ちゃんが見に来ていた。まさかこの時点では誰もこの5人がこの年の年末に渋谷のAXでライブやるなんて知る由もない。ましてやシングルをこの1年後に録音することも。この物語はフィクションのような神様のいたずら。
この頃のジャック達は自ら企てた「ジャックフルーツ・シングルズ」という配信で1年間に6枚のシングル全12曲を発表するという流れの真っ只中にいた。まあ、配信だから枚ではないのだけど。2008年に「STROWBERRY」「GRAPE」の2枚を発表して、第3弾の「LEMON」の録音は終わり、配信開始を待つだけみたいな時期だった。そこまで製作した6曲は、「今すぐ帰りたい」「東京一悲しい男」「謎の帽子屋」「JET SET」「JUMPER」「アーケード・カスケード」だった。それをCD-Rにまとめたものを2008年の年末に祥子ちゃんにも渡した。南青山での祥子ちゃんのライブの時に楽屋で。聞いてもらいたくて。ジャック達と祥子ちゃんは、2008年の11月に平澤氏の企画した「GOLDEN POPS」というイヴェントで東京ローカル・ホンクと共に共演したばかりだった。ここでもう一人の登場人物、平澤氏登場だ。平澤氏は祥子ちゃんとジャック達の両方のスタッフをしている。その関係もあったのか祥子ちゃんのこのころ出たばっかりの新作「Sweet Serenity」にヒロムがギターで1曲参加したりもしていた。そして「ジャックフルーツ・シングルズ」の前半戦をまとめたCD-Rを祥子ちゃんがとても気に入ってくれたらしくこの日のライブを見に来てくれたんだった。この日のライブ後に事件が起きたらしい。オレはずいぶん後で知って驚いたのだが、祥子ちゃんが平澤氏に今入っているすべてのスケジュールをキャンセルしたいと言ったそうなのだ。マジっすか?なんでも、オレ達がとても楽しそうに演奏していたというのだ。「私はあんなに楽しそうにライブをしたことがないし、出来ない。」とも。そんなに楽しそうだったとは。確かにその日のジャック達は、オリジナル・べーシスト脱退のショックから半年後に、カーネーションから大田譲という強力なベースが助っ人に来てくれて3回目のライブだったし、またこうしてライブが出来る、しかも以前よりも強力に、みたいな気持ちはあったけどそんなに楽しそうに見えたのは意外だ。しかもこれも後で本人から聞いたのだが、音楽をやめて庭師の修行をするとまで平澤氏に伝えたそうなのだ。なんで庭師だったのかは謎だが、平澤氏は電話で3時間以上も思いとどまるように説得したらしい。そりゃあ、そうだ。鈴木祥子という特異希な才能をこの国が失うかどうかの瀬戸際だ。それにしても電話で3時間っていうのもすごい。その説得が功を奏したのかは、2010年を生きている人にはおわかりだろう。 そんな事は当然知らないオレは、3月22日桜木町の横浜美術館に行った。祥子ちゃんが美術館でライブをやるというからだ。そして以下その次の日の日記に書いたオレの文章。 「美術館の超強気な女」 夕べは横浜美術館の鈴木祥子姫のライブを見に行った。桜木町からランドマーク・タワーを抜けて行くとその美術館はある。美術館に入るとそれは素晴らしいロケーションで、ここでライブをやりたいと思ったアーチストの気持ちと、それを叶えたいと思ったスタッフとの強い気持ちがなんとなく伝わってきてすでにジワっと感動が走った。そしていわゆる客電が落ちるわけでもなくライブが始まり、姫は和服で長い階段を降りてきた。最初は明るすぎるなとも思ったが、5分もしないうちにこれも悪くない気がしてきた。素晴らしいライブ。想像だけどライブどうやるかみたいな打ち合わせで、「照明はどうしようか?」みたいな話が出たときに姫が「このままでいきたい。」と言った顔がなんとなく目に浮かんだ。あのまっすぐな強い視線が。去年のマンダラ2で共演した時の打ち合わせで「スターシップで行きましょう。」と言った時の目が。ライブが進むにつれてこれはコンサートと言うよりもタランティーノの映画のロケにエキストラで参加してるんじゃないかという錯覚に陥っていた。その中で姫はどんどんエキストラどもを自分の手の内に引き込んでいく。すごい力だと思った。アンコールの最後で披露されたのが、「超・強気な女」という新曲だった。...あたしぐらいになると流行なんかは関係ないとハンドマイクで踊りながら着物姿で歌う彼女はこの曲を7インチアナログ・シングルとカセットで発売すると言った。アナログ・プレーヤー持ってない人は買ってください、とも。粋とか、いなせとかいう言葉が脳の中をかけめぐった。かっこいいよ。終わった後あいさつもせずに帰ってしまったのだが、なんか雨の中を歩きたい気分になっちゃったんだな。だって1エキストラが主演女優にあいさつなんておかしいだろう。 「超・強気な女(I’ll get what I want)」は、驚きの新曲だった。一度聞いただけなのにその歌詞が耳から離れない。オレがこんな日記を次の日にすぐアップしたのもうなずけるだろう。 そのころジャック達は相変わらず「ジャックフルーツ・シングルズ」と隔月のライブに追われていた。1枚配信する頃には次の締め切りみたいな感じだった。オレ達がそんなことをしてるうちに、一方で祥子ちゃんの中で眠っていたロックがむくむくっと目を覚ましだしたらしいのだ。祥子ちゃんの家のラジカセでは「ジャックフルーツ・シングルズ」が回り続けていた。それこそ毎日のように。そしてジャック達の7月のライブに祥子ちゃんにゲスト出演してもらう事になりその打ち合わせが6月のある日渋谷で行われた。そこで衝撃の提案が祥子ちゃんの口から。その日は次のライブで何をやろうかみたいな打ち合わせだろうと、オレは思っていた。祥子ちゃんから何を言われても驚かないぐらいの自身はあった。なんせ2008年のライブでは、スター・シップの「We Built The City」をやったのだ。しかもオレが書いた替え歌で。あれよりすごい選曲なんてないさ。ぐらいなもんさ。ところが事態はそんな生易しいもんではなかったのだ。祥子ちゃんがソニーから出し続けている「SHO-CO SONGS collections」の3が10月にリリースされるのでそのレコ発ライブを東京と大阪でジャック達とやりたいと言われる。しかも東京は渋谷のAXだという。ひっくり返るジャック達という名のもやしっ子3名。まあ、子ではないのだが。ナッキーが真顔で言う。バックをやるのはいいけど、フライヤーとかにはジャック達とか書かないほうがいいんじゃないかと。動員が落ちるよとか。AXでジャック達が演奏している絵が思い浮かばない。しかし、祥子ちゃんは言う。「バックとかじゃなくでバンドっぽくやりたい。」「それなら面白いかも。」と、オレは思った。「じゃあ、そのバンド用の新曲を作ろうよ。」とも言った。オレと祥子ちゃんで。頭の中でなんとなくイメージがその時浮かんだ。アメリカとイギリスを渡る航路を走る客船の絵だ。酒も入って渋谷のバーで押し問答は続く。「ほんとに、オレラでいいの?」「ジャック達とロックがやりたいの。」「でもAXは、やばいんじゃないの?」「collection 3はジャック達だとすごく盛り上がると思う。」普通、逆だろうとオレは思った。オレ達がプレゼンして是非やらしてくれとか言って、ちゃんと出来るのとか言われるのが世間一般の流れだ。でも始まりなんてそんな物かもしれない。少しいびつなバンドが生まれようとしていた。 そんな様々をしょって7月17日に吉祥寺のマンダラ2で「5フルーツ・イン・ジュライ」というライブが行われた。もちろん念願の「超・強気な女(I’ll get what I want)」withジャック達は、演奏された。そしてカバー曲はアン・ルイスの「グッバイ・マイ・ラブ」。ね~、祥子ちゃんやるでしょう?この間奏でオレと祥子ちゃんがひとネタかました。オレが前日黄金町の試聴室の祥子ちゃんのライブにジャック達のリハが終わった後に西荻からかけつけて打ち合わせたネタだ。そしてウケる。うまくいったので機嫌が良くなったオレと祥子ちゃんはまだ情報解禁前だった年末のAXライブの事を喋ってしまう。ざわめく客席。そりゃそうだろう。それはギャグのようだ。しかし、ギャグではないのだよ。そこが、冗談のようだ。そしてスケジュールが出る。ジャック達助っ人べーシストの大田くんのスケジュールと激しくバッティングした。カーネーションの年末発売の強力な新譜「Velvet Velvet」のツアー。そこで、べーシストとしてかわいしのぶちゃんに白羽の矢が当たる。祥子ちゃんとは何回もライブをやってるし、ジャック達も年に1度は一緒にライブをやってたtricomiのべーシスト。すぐ後に「ジャックとしのぶとしょうこ達」と呼ばれるバンドの誕生。誕生と言ってしまおう。それは、どうみてもバンドとか言いようがないからだ。ジャック達は「ジャックフルーツ・シングルズ」を無事完結した。そして、オレ達と祥子ちゃんの年末に向けてのジェットは離陸した。オレは、このバンドのために3曲の新曲を書いた。1曲は、祥子ちゃんの歌詞に曲をつけた「東京days」これは未だ途中だ。そしてもう1曲がまだ祥子ちゃんも知らないミディアム・バラード。そしてもう1曲こそが「マイ・スウィート・サレンダー」。オレがヒロムの家で録ったしょっぱいデモが素晴らしい新曲に変身した。ライブでもハイ・ライト・チューンになりそうな。祥子ちゃんが詞を書いて。 そしていよいよリハーサルが始まる。11月14日。まだAXまでは1ヶ月以上あるんだけどとりあえず音を出してみるみたいなリハーサルだ。しか~し、またしても事件が起きる。オレが新型インフルに患ってしまうのだ。インフルエンザ恐るべし。去年、流行ったでしょ。あれだよ、あれ。そして今度はしのぶちゃんがその3週間後くらいにマスク女に。しのぶちゃんもインフル。インフルどんだけ~。結局5人揃ったのは2回だけだったな。でもそのリハーサルはまるでバンドだった。「マイ・スウィート・サレンダー」を5人でアレンジする。あ~でもないこ~でもないと。そして本番。まずは新宿ジャムの日がやってくる。12月18日。オレはこの日のライブの前が1番緊張したな~。「collection 3」を形成する「スナップ・ショッツ」と「キャンディ・アップル・レッド」の曲は、一筋縄じゃいかないのだ。ちゃんと出来るんだろうか?そんなオレの心配をよそに祥子ちゃんはロック全開。何日か前に横須賀でYAZAWAのライブを見たらしい。YAZAWAの黒いTシャツで登場。新宿の老舗のライブ・ハウスにロックが響く黒い夜だった。途中でオレと祥子ちゃんの高校生のとき作った曲対決なんてのもあった。その日のリハーサルの時に突然祥子ちゃんが思いついたのだ。思いつくぞ~、突然。でも、フツ~は思いつくだけでなかなか本番でやったりはしない。リハの時にふざけてやって、あはははで終るもんだ。でもそこが、鈴木祥子が鈴木祥子であるところだ。本番でもきっちりやった。オレが「駱駝」を歌い、祥子ちゃんが「誕生日まで待っててね」を歌った。そしてどちらも今に通じるそんな雰囲気のある曲で面白かったなあ。ナイス企画だった。ナイス企画と言えばこの日のライブは3日後のAXがフォーマルな感じだとすればそれよりもずっとカジュアルな内容で、アンコールでは大瀧詠一の「河原の石川五右衛門」というピンク・レディのパロディみたいな曲を祥子ちゃんとしのぶちゃんがミーちゃんケイちゃんばりに踊って歌った。この曲ではしのぶちゃんのベースを借りて後ろでベースを弾いていた。ほんとは客席で見たかったんだな。こちらもナイスでしたね。そして「マイ・スウィート・サレンダー」がついに人前で初めて演奏される。とても盛り上がった真冬の熱い夜。終わって楽屋で祥子ちゃんが、「私のライブでこんなに盛り上がったのは初めてです。」と言った。そこには、もう1月の祥子ちゃんはいなかった。 3日後オレ達は、ジャムの興奮を引き連れて渋谷のオオバコAXに向かう。午後1時にAXに入ると、もうヒロムがレスポールをぶら下げて譜面を睨みつけていた。長い1日の始まり。オレは、まだ照明の立て込みをしている舞台に立ってみた。「デカイ。」まずはそう思ったよ。天井がはるか上に。客席はそんなに広いとは感じなかったが、とにかくステージが広いと思った。ここであと何時間か後に演奏するのか。やがて、リハーサル。ゲストのクジラさん、拓夫さん、西村さんも参加してグッと本番チックな雰囲気。祥子ちゃんの赤いラディックとナッキーのソナー。二つ組まれたドラム・セットがカッコイイ。淡々と進むリハーサル。なんとかいけそうな気がしてきた。本番が始まる。お客さんがいきなり総立ちになった。一気に突っ走るバンド。そこにはバンドがいた。なんとか終わる。終わるもんだ。6月のあの腰を抜かしたミーティングから半年後、オレ達は本当にAXの板の上にいた。ありがとう祥子ちゃん。しのぶちゃん。この日の演奏がライブ盤になる。驚きは止まらない。とにかく祥子ちゃんといるといろんなことが起きる。そこがおもしろい。ライブがはねて、ロビーで乾杯。でも打ち上げはなしだ。バンドは翌日大阪に向かう。 翌朝。というか12時なんだけど、オレ達は新幹線で大阪に向かった。車中で昨日のライブを振り返りながら。「マイ・スウィート・サレンダー」を録音しようとか言いながら。でもそれは、しばらく先の話だと思ってた。新幹線はきっちり時間通りにオレ達を運ぶ。梅田のシャングリラは東京に負けないぐらい盛り上がる。アンコールが鳴り止まない。もう曲ないよ。祥子ちゃんが「新しい愛の詩」を弾き語りで。長い2日間が無事終わる。でも物語の方は終わらない。終わらないんだから驚きでしょ。帰りの新幹線では、「追加公演」やろうとか言ってるんだけど、それも冗談ではなくなるところが鈴木祥子なのだ。 年が明けてすぐのことだ。平澤氏からメールが入る。「例のマイ・スウィート・サレンダーの録音の件なんですけど、1月29日にスタジオ、フィックスしていいですか。」ライブで初めてこの曲を演奏してからまだ1ヶ月もたたないうちにこの曲がシングルで4月8日に発売される事が決まった。そして、再びジャックとしのぶとしょうこ達がスタジオに集まる。「あけおめ、ことよろ」とか言う時期に。平和島のサウンド・クルー・スタジオ2010年1月29日。 ![]()
by isssssiki
| 2010-04-11 17:36
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